研究概要 |
このコホート研究は約11,000名の被用者を対象として、生活習慣病の発症予防のため、平成9年以降毎年の定期健診成績と生活習慣病の発生をデータベース化している。出発時に続き、平成14年にも日常生活習慣アンケートと血液保存を行った。両年の保存血清について、インスリン、レプチン、CRP等の測定を行った。本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。以下に主な成果を述べる。 (1)平成9年以後5年間におけるアンケート回答に基づく心疾患発病者は52名(心筋梗塞15名、狭心症14名、PTCA 17名、CABG 3名、:重複回答あり)であった。同意を得た18名について主治医への問い合わせを行った結果、心筋梗塞については100%の一致を見たが、他については100%に達しなかった。脳卒中と答えた36名では、脳梗塞とくも膜下出血については100%の正答率であった。高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症の正答率は95%を超した。(2)一事業所の被用者2,000名について20歳から5歳間隔の実測体重を把握し、その変動と現在のインスリン値、CRP、メタボリック症候群(MS)との関連を検討した結果、各指標の悪化に現在の肥満度やその増加の勾配のみならず体重の変動自体も関わっており、若年からの体重維持の重要性が示唆された。(3)約3,500名の解析において、MSの構成要素は白血球数やCRPの上昇と関連したが、インスリン値は白血球数との間に独立した関係を示さなかったことから、インスリンはMSの発症を介して低炎症状態あるいは動脈硬化を招くと推論した。レプチンは肥満の影響を除外しても白血球数の増加に関連していた。(4)血圧と塩味の好みとの関連性が女性では50歳以上で強くなることから、食塩感受性に対する閉経の影響が示唆された。(5)約2,600名の血清リン脂質転送タンパク質は血清脂質、BMIとの間に強い関係を示し、37ヶ月の追跡期間中の冠動脈疾患発生との間に有意な負の関連性を示した。脳卒中の発生とは関連しなかったので、冠動脈疾患に特異的な予測因子である可能性が示された。(6)食事摂取頻度と食行動に関する簡易アンケートの再現性と妥当性を確認した。20歳時の体重の自己申告値と実測値との比較を行い、前者の信頼性を確かめた。
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