研究概要 |
家族心理教育によって統合失調症の再発が予防されることが明らかにされてきたが,それにより医療コストが節約されるか否かは明確ではなかった.そこでその医療経済学的評価を行った.研究対象は再発リスクの大きい高EE(感情表出)の家族と共に生活する統合失調症患者とした.心理教育群は,家族が心理教育および集中的家族セッションを受けた者および心理教育とその後のサポートを受けた者,合計30名とし,比較対照群としては過去のコホート研究での高EE群を選んだ.これら対象者の退院後9カ月間の医療コストを比較検討した.外来医療コストの平均値を比較すると,両群間で有意な差は認められなかった.入院医療コストを比較すると,心理教育群の平均値は27万円で,対照群の47万円よりも小さくなっていたが,その差は有意なレベルには達しなかった.心理教育群の合計コストは平均50万円で,対照群の71万円よりも小さくなっていたが,やはり有意な差は認められなかった。中央値以上の医療コストの割合は心理教育群では23%であったが,対照群では54%であり,有意差が認められた.したがって、家族心理教育の再発予防効果によって,心理教育群の医療コストは対照群と比較して軽減されると結論した. うつ病をはじめとする気分障害患者の医療コストを家族のEEの高低別に比較検討した.32名の気分障害患者を対象に9カ月間のコホート研究を行うと,高EEとされた5名中での再発リスクは80%,低EE群27名中の再発リスクは22.2%であった.両群での医療コストを比較検討した結果,高EE群では医療コストが高くなっていた.このことから,家族への心理教育によって医療コストの軽減が図れる可能性が示唆された. また,老人性痴呆疾患では医療経済学的文献考察を行い,医療コストが今後,大きな社会問題となる可能性が明らかとなった.
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