研究概要 |
本研究は、ディーゼル排気微粒子(DEP)が精巣や精巣上体での精子産生能力、精子生存率ならびに精子の形態異常、或いはそれら組織の形態に及ぼす影響を調べることと、それらの影響がどのようなメカニズムで生じるのかを明らかにし、最終的にはこれらの生殖毒性を食品の摂取で低減することが可能かどうかを検討することを目的とした。 (1)13年度には、4濃度(2,0mg,0.67mg,0.22mg,0.074mgのDEP皮下投与で0.22mg,と0.07mg群で膣閉塞奇形児の誕生を認めた。このことより、DEPには環境ホルモン作用があることを見いだした。そこで、14年度には、DEPの生殖毒性の検討として、DEPの発現にはArylhydrocarbon Receptor (AhR)が関与する可能性を考え、AhR活性の異なる4系統のマウスにDEP懸濁液を投与して、AhR活性の間接指標としてのEROD (Ethoxy resorufin-0-deethylase)活性と精子産生能力を調べたところ、両者の間に非常に高い負の相関があることを見出し、精子産生能力にAhR活性が深く関与していることを見出してきた。 (2)15年度は、(1)の再現性確認実験を行った。それと共に、精子の成熟に重要な組織である精巣上体での精子の生存率および精子形態異常(奇形)についで検討した。実験は前年度と同様のBALB/c系、C57BL系、DBA系およびICR系の4系統の雄マウスを用いて行い、それらマウスの精巣上体での精子の奇形率がAhR活性の間接指標であるEROD活性との間に正の相関を示した。特に、精子奇形の中でも、midpiece異常率との間で相関が高かった。このことは、精巣での精子産制とともに精巣上体での精子の成熟過程での奇形化にもAhR活性が深く関与していることを示している。さらに、DEP投与後には、精巣上体の管壁のうち上皮細胞層は薄くなり、その周囲の基底層が肥厚している事などが観察され、この組織的変化が精子の成熟過程を阻害していることが示唆された。 (3)15年度はさらに、DEPの環境ホルモン様作用を低減させる食品成分の検索をおこなった。上記のように、AhR活性が精子産生能や精子の形態異常(奇形)などと関連が深いことが示されたので、本研究では、文献的にAhRに対して阻害作用を持つケルセチン等のフラボノイド3種類を選びAh-immunoassay法にてAhR阻害活性を調べたところ、ケルセチン>ミリセチン>レズベラトロールの順で、しかも非常に低い、生体内でありうる濃度で阻害していることが判明した。
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