これまで、動物を用いた研究から、脳の辺縁系の一つである海馬および扁桃体はストレス対処と関連することが知られている。ヒトにおいても、ストレス関連疾患である大うつ病や外傷後ストレス障害において小さな海馬体積や扁桃体の過活動が観察されている。本研究は、ヒトにおける、海馬および扁桃体体積と破局的体験であるがん体験後に認められるがんに関連した苦痛な想起の関連を検討することを目的として、横断的研究と縦断的研究により行われた。 平成13年度までに、MRIを用いた海馬および扁桃体体積の測定方法を開発し、がんに関連する苦痛な想起の有る群は無い群と比較して有意に左海馬体積が小さいことを見出した。 平成14年度に、扁桃体体積の検討を行った。対象者は国立がんセンター東病院で乳がんの手術を受けた後、3年以上生存している18-55歳女性とした。除外基準として、がんの再発、神経疾患の既往、早発痴呆の家系、向精神薬服薬中、日常生活に影響する身体状態、認知機能障害、扁桃体体積測定に不十分なMRI画質とした。がんに関連する苦痛な想起は半構造化診断面接により評価した。1.5テスラのMRIを用いて頭部3D-SPGR画像を撮像し、扁桃体体積を求めた。対象者76名のうち35名に苦痛な想起を認めた。苦痛な想起の有る群は無い群と比較して有意に小さな左扁桃体を認めた(P=0.04)が、右扁桃体および大脳体積に有意な差を認めなかった。 縦断研究の対象者は術後15ヶ月以内の乳がん生存者とし、他条件は上記と同様である。術後15ヶ月以内の時点と術後3年以上経過した時点の二度調査を行った。平成14年度までに、15ヶ月以内の調査を122名に行い、その内56名は3年後の追跡調査も終了している。また、がんを経験していない健常者についても対照とし81名の調査を終了した。 今後、健常者を対照とし、縦断的に観察した海馬および扁桃体体積の変化を苦痛な想起の有無間で比較検討を行う。
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