インフォームド・コンセントが前提となるがん医療が推進される中、がんという生命を脅かす危機的情報の開示や、がんやがん治療などの破局的で不快な外傷的出来事を体験した患者には、がんに関連した苦痛な想起及び大うつ病が高頻度に認められるが、その神経生物学的機序についてはほとんど分かっていない。先行研究において、再発性で、長期に持続する大うつ病と海馬体積が小さいことの関連が示唆されており、本研究では、乳がんの診断後に初めて生じた大うつ病と海馬体積に関連があるか検討した。 対象は初発乳がんの手術を受けた後、3年以上(平均4.3年)経過した女性のうち、がん告知後に初めて大うつ病エピソードを経験した17名と経験しなかった51名である。ともに、頭部三次元MRIの撮像及び、Wechsler Memory Scale-Revisedによる記憶機能検査を行い、大うつ病エピソードの有無で海馬体積及び記憶機能を比較した。本研究は対象施設の倫理委員会で研究実施計画が承認された後、開示文書を用いて研究の目的を十分に説明し、参加者本人から文書による同意を得た後に行われている。 結果、がん診断後に初めて経験された大うつ病エピソードの有無では、左右の海馬体積及び遅延再生記憶に統計学的有意差を認めなかった。本研究では大うつ病と海馬体積の関連は認められなかったが、結論付けるには健常者対照をおいた縦断研究等のさらなる研究を行う必要がある。
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