研究概要 |
皮膚創傷治癒過程における癌関連遺伝子の局在を免疫組織化学的手法を用いて検索し,皮膚損傷の受傷後経過時間判定のための有用な指標となる物質であるか否かについて検討した.法医剖検例で受傷後経過時間が判明している皮膚損傷(刺創,切創,外科手術創及び挫裂創)を計50個採取し,10%PBS緩衝ホルマリンで固定後,パラフィン包埋切片(4μm厚)とした.一次抗体に抗c-fos及びc-Jun・ウサギポリクローナル抗体を用いて免疫染色を行った.染色結果について,各切片ごと任意で10視野選択し(200倍),1視野当たりの全細胞数に対するc-fos及びc-Jun陽性細胞数の割合を求め,その10視野の平均値をc-fos及びC-Jun発現量とした. 結果及び考察:正常皮膚組織では表皮細胞や毛嚢細胞の核に陽性所見が観察された.一方,損傷皮膚試料で,受傷後1日未満では,主に好中球浸潤が観察され,一部の好中球の核にc-fos及びc-Jun陽性所見が認められた.受傷後1日以上では,好中球に替わってマクロファージの浸潤,さらには線維芽細胞の増殖が観察され,これらマクロファージや線維芽細胞の核に陽生所見が認められた.c-fos及びc-Jun陽性率は受傷後1日未満の損傷では低く,受傷後1日以上の損傷ではc-fos及びc-Junともに陽性率が10%を超えるものが多かった.これらの結果はc-Junが皮膚創傷治癒,特に細胞増殖と密接な関係のあることを示唆している.
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