抗リン脂質抗体症候群とは、多彩な動・静脈血栓症、習慣流産および血小板減少を主要徴候として、抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントさらには、最近とみに注目されているホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体などのリン脂質に対する自己抗体の出現を特徴とする、難治性の自己免疫疾患である。抗カルジオリピン抗体の対応抗原がカルジオリピンではなく、血中のアポリポ蛋白Hであるβ2グリコプロティンI(β2-GPI)であることを1990年に明らかにした。 抗リン脂質抗体症候群の発症頻度には明らかな人種差が存在する。すなわち、欧米人に多く黒人には少なく、日本人はそのほぼ中間程度の発症頻度である。また、β2-GPIには数種類の遺伝子多型が存在する事が知られているが、その生理的もしくは病理的意義に関しては全く明らかでは無かった。私は、既知のβ2-GPIの遺伝子多型の中で247番の位置に相当するValとLeuの遺伝子多型が抗リン脂質抗体症候群発症のリスクファクターになる可能性がある事を見い出した。即ち1)欧米人の一般集団ではβ2-GPIの247番目のアミノ酸はValが圧倒的に多く、逆に日本人のそれはLeuが多い事。2)抗リン脂質抗体症候群の発症率は日本人では欧米人に比し低いが、日本人の抗リン脂質抗体陽性者にはVal(247)を有する者が有意に多い事。3)抗β2-GPI抗体はVal(247)を有するβ2-GPIにより高い結合活性を有する事等から、ValとLeuの遺伝子多型が抗リン脂質抗体症候群発症のリスクファクターになる可能性があると結論した。
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