抗癌剤多剤併用療法は臨床の実地の場面では多用されているが、その意義は副作用の重複を避け薬剤の容量強度を増強することに根拠を置いており多分に経験則によるものが多い。癌化学療法の個別最適化には、投与法の迅速な感受性診断が必要である。 そこで我々は、DNAマイクロアレイを用いて各種癌細胞株を用いて、多剤併用条件下での遺伝子発現変化の解析を網羅的に行った。まず、昨年作成した11520クローンからなる独自に作成したマイクロアレイを用い、以下のような薬物投与下で遺伝子発現解析を行った。癌細胞株(DLD1、LS174T、OVK18、MCF7)を培養し、5FU(30μM)、シスプラチン(0.5μg/ml)、塩酸イリノテカン(60μM)を単剤で、更にシスプラチン(0.5μg/ml)と5FU(5μM)を併用、塩酸イリノテカン(10μM)と5FU(5μM)を併用により投与した。MTTアッセイにより72時間後に25%以上の増殖抑制をもたらす併用療法に対し、特異的に遺伝子発現量の変化を認める遺伝子群を抽出した。単剤、併用療法時で特異的遺伝子発現変化をもたらす遺伝子は約110遺伝子あり、その中にはシスプラチン投与時に特異的なHsp90などの分子シャペロン等の他に、転写因子YB-1の活性上昇を認めた。一方、シスプラチンに5FUを併用した際にはYB-1の発現上昇を認めないことを見いだした。YB-1はMDR遣伝子産物の転写活性化に関与するため、併用療法時にその発現低下を認めることは薬剤の細胞外くみ出しに対し治療上有利に働くと考えられた。 本研究では細胞株において、多剤併用療法特異的遺伝子発現変化が認められた。すなわち、化学療法の個別最適化を行う上で薬物の至適組み合わせ、感受性に影響をもたらす遺伝子群をマイクロアレイを用いて網羅的に解析しうる事を意味し、今後の化学療法の最適化に重要な情報となるものと考えられた
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