研究概要 |
本研究では、消化管組織に存在するオーファン受容体に対するリガンドを分離同定し、また、その生理機能を解明する。我々は、オーファン受容体APJに対するリガンドとして新規消化管ホルモン、アペリンを同定した。本研究では、アペリンの消化管における生理作用を検討し、アペリンが腸内分泌細胞からコレシストキニン(CCK)を低濃度で遊離すること、腸由来のSTC-1細胞からもCCKを遊離することを見いだした。また我々は、アペリンが血圧を低下させ、NO由来の血中NOx濃度を上昇することを見いだした。さらに我々は、アペリンの延髄腹外側領域の投与が血圧を上昇させ心拍数を増加させることを見いだした。これは、アペリンが循環中枢ニューロンを刺激し、昇圧、頻脈応答を誘発したものと考えられた。アペリン抗体による免疫染色では、延髄腹側表面に顕著なアペリン染色が観察された。また、我々は脂肪細胞におけるアペリンの遺伝子発現とその発現調節について検討した。マウス分離脂肪細胞では、アペリンおよびAPJmRNAの発現が認められた。そして、アペリンmRNAレベルが3T3L1細胞の分化誘導2日目から増加し、6日目には未分化細胞レベルの3.9倍に達することを見いだした。3T3L1脂肪細胞におけるアペリンmRNA発現はインスリン濃度依存性に増加し、デキサメタゾン濃度依存性に低下した。これらの結果は、脂肪細胞においてアペリンmRNAの発現がインスリンおよびグルココルチコイドによって調節されていることを示唆している。 一方、我々は、ヒト肺癌細胞においてボンベシンレセプターサブタイプ3(BRS-3)の活性化によるラミニン依存性接着に対する効果を検討し、そのシグナル伝達に関する研究を行った。BRS-3の内因性リガンドは未だ同定されていないが、合成ペプチド[D-Phe^6,β-Ala^<11>,Phe^<13>,Nle^<14>]Bn(6-14)はBRS-3に特異的に結合してBRS-3を活性化することができる。本研究で我々は、NCI-N417肺癌細胞においてBRS-3の活性化によりfocal adhesionが形成されて接着を促進すること、その接着促進機構には細胞内カルシウムおよびチロシンキナーゼの伝達経路が関与していることなどを見いだした。また、BRS-3の活性化が肺癌細胞の細胞外基質への接着および遊走を促進し、がん細胞の浸潤や転移などに何らかの役割を果たしている可能性を示唆した。
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