消化器癌における多段階発がんの仕組みを解明すべく、1)トランスクリプトーム解析、2)ゲノム解析の両面から網羅的な生物情報を収集し、3)膨大な生物情報からのデータ抽出のための情報解析アルゴリズムを新たに開発することを目的とし、下記の2項目について研究を実施した。 (1)肝細胞癌の分化度を規定する遺伝子群 肝細胞癌に特有の癌進展形式である「結節内結節」像を呈する肝細胞癌の包括的遺伝子解析を行い、高分化型と比較して中分化型で発現が変化する16遺伝子を同定した。 EIM (Expression Imbalance Map)解析により発現量の変動する染色体領域を特定したところ、既報のCGHの論文とデータが相関し、かつゲノムDNAの定量的PCRによりコピー数変動が確認されたことから、転写レベルでの発現変化にはゲノムレベルでの染色体の増減を強く反映されていると考えられた。また、肝癌脱分化の過程で染色体領域が段階的に変化することを明らかにした。 GPC3は肝癌で転写レベルのみでなく蛋白も増加していることを示した。GPC3は細胞膜で共受容体として細胞増殖を抑制するリガンドの効果を抑える作用があることから、GPC3は肝発癌において細胞増殖を促進している可能性が考えられた。 (2)胃癌転移、播種に関与する遺伝子群についての同定とそれらの機能解析 胃癌の発生・進展・多様性に関する分子レベルでの理解を得るために、進行胃癌原発巣22例および非癌部胃粘膜に対して発現プロファイル解析を行った。分子レベルでの胃癌の理解に重要であり、こうした研究が将来の診断や治療の標的の同定に役立つと考えられた。 スキルス胃癌原発巣から樹立した細胞株OCUM-2Mおよび腹膜播種能およびリンパ節転移能の高い細胞株OCUM-2MD3およびOCUM-2MLNについて遺伝子発現プロファイル解析を行い、TFF1、galectin4、alpha-1-antitrypsinの高発現とcytidine deaminaseの低発現と腹膜播種能の間に関連が認められた。galectin-4発現誘導細胞株MKN74TetOff-g4において、galectin-4の発現時に浸潤能・運動能の亢進が認められた。
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