我々は、まず、正常腸管筋線維芽細胞の分離を試みた。十分な説明の上で提供を受けた正常ヒト大腸組織をEDTAおよびcollagenaseで処理することにより継代可能な純粋な腸管筋線維芽細胞の分離に成功した。ヒト大腸筋線維芽細胞からのケモカインおよびIL-6の誘導作用について検討を加えた。IL-17は濃度および時間依存性にIL-8、MCP-1およびIL-6の産生を誘導した。これらの効果は、mRNAの発現レベルにおいても確認された。IL-17は、IL-1βやTNF-αと同様に転写因子NF-κBの活性化を誘導した。IL-17によるこれらのケモカイン、IL-6の誘導はNF-κB依存性であることが明かとなった。IL-17刺激によりヒト大腸筋線維芽細胞に15分で、ERK1/2およびp38のリン酸化が誘導された。さらに、IL-17により誘導されるIL-8、MCP-1、IL-6の誘導は、ERKおよびp38の特異的阻害剤により著明に抑制された。さらに、IL-1βやTNF-αの効果に対するIL-17の影響を検討したところ、IL-17はTNF-αにより誘導されるIL-6産生を特に強く増強することが明らかになった。一方、TNF-αは大腸筋線維芽細胞から強力にRANTESの産生を誘導する。興味あることにIL-17は、このTNF-α誘導性RANTESの産生を抑制した。この作用は、転写レベルでの作用で、RANTES promoter活性について検討したところ、IL-17はTNF-αにより誘導されるRANTES promoter活性を抑制していた。IL-17はNF-κBの活性化には影響しなかったが、IRF-1の結合を強力に抑制した。IL-17のTNF-α誘導性RANTESに対する抑制効果は、このIRF-1の活性化の抑制によると考えられた。炎症性腸疾患の病態へのIL-17の関与について検討を加えた。潰瘍性大腸炎やクローン病の活動期病変粘膜ではIL-17陽性細胞の数的増加が確認された。炎症性腸疾患に代表される慢性炎症の病態形成にIL-17が関与している可能性が示唆される。今後、IL-17KOマウスや抗IL-17抗体の実験大腸炎モデルに対する効果を検討して、IL-17の炎症性腸疾患の病態における意義を明らかにするとともに、治療への応用を視野にいれた展開が期待される。
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