研究概要 |
胃で産生されるガストリンは強力な酸分泌促進因子であると同時に、胃粘膜の増殖因子である。一方ヘリコバクタ・ピロリ感染による萎縮性胃炎ではしばしば高ガストリン血症が認められるが、萎縮性胃炎は胃発癌の母地と考えられている。私達は世界に先駆けてヒト・ガストリン受容体遺伝子をクローニングしたが、本受容体遺伝子にはエクソン5にチミンが8個連続した部位(polyT8)が存在する。そこで本研究ではこのようなpolyT部分では遺伝子変異が高率に生じやすいことから、本部分の変異が胃癌の発症に関与しているか否かを明らかにする事を目的とした。その結果(1)ヒトECLカルチノイド腫瘍、MSI陽性胃癌、MSI陰性胃癌において、polyT8部分のTの欠失をそれぞれ6/16、12/15、0/23例に認めた。(2)さらにガストリンによって発現が増強するReg蛋白は、カルチノイドで変異のある例では全例に、ない例では6/10、MSI陽性胃癌の変異群では10/12に、非変異群では0/3例に、さらにMSI陰性胃癌では2/23例にその発現を認めた。(3)これら変異ガストリン受容体遺伝子をNIH3T3細胞に導入して、細胞内シグナルならびに増殖反応を比較検討したところ、T6,7変異遺伝子の導入では、定常状態の増殖反応は正常遺伝子導入細胞に比較して亢進していた。しかしながらガストリン投与によっては、正常遺伝子導入細胞では、細胞内カルシウムの上昇とともに、明らかな増殖反応が観察されたのに対して、変異遺伝子導入細胞では無反応であった。(4)以上より、ヒト胃のECLカルチノイド腫瘍ならびに胃癌では、特にMSI陽性を示す例において、ガストリン受容体のエクソン5の変異が高率に認められ、これがReg蛋白の発現を増強するとともに、定常状態における細胞増殖反応を増強させている可能性が強く考えられた。
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