研究概要 |
主に肥満細胞由来と考えられる組織キマーゼの発現は各種循環器疾患の病態(心筋梗塞発症と梗塞後心筋リモデリング、心不全、動脈硬化、心筋症)と関連することが臨床サンプルや動物基礎実験で明らかにされている。ヒトキマーゼをin vivoで研究するためにヒトキマーゼ遺伝子導入マウス(hCTg)を作成した。hCTgは軽度血圧上昇、左室肥大、心機能低下、乏毛、白血球増多、易動脈硬化発症等の発現型を有することが明かとなった。これらのhC-Tgの表現型のアンジオテンシンII(AngII)依存性を検索することが本研究の目的であった。 この点を解明するためhC-TgとAT1受容体ノックアウト(AT1KO)マウスの交配により、4つのマウスライン:hC-/-,AT1+/+(wild);hC+/-,AT1+/+(hC-Tg);hC+/-,AT1-/-(hCKO);hC-/-,AT1-/-(AT1KO)を確立し、それぞれの基本的表現型を比較した。hC-Tgでは心拍数には変化なかったが、収縮期血圧はAT1KOと同程度まで低下した。一方、心肥大は有意に減少したが、完全には抑制されなかった。したがって、hC-Tgで観察された軽症高血圧は完全に、心肥大は部分的にアンジオテンシンII依存性であることが明らかになった。その他の表現型(体重減少、白血球上昇、乏毛)に関してはhC+/-,AT1-/-マウスではhC-Tgマウスと同様に存在し、AT1受容体非依存性であることが判明した。これらの結果は局所組織のヒトキマーゼ依存性アンジオテンシンII産生が軽症高血圧とそれに伴った心肥大を惹起することを示唆する。また、ヒトキマーゼにはAT1受容体を介さない生理作用も存在することも明らかとなった。これらの成果は昨年度第66回日本循環器学会と第19回世界高血圧学会にて発表し、論文は投稿中である。
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