β酸化異常症は、正常に生活していながら急性脳症や突然死を起こす患者が多く、最近タンデムマスを導入した新生児マススクリーニングがなどによって注目されている.そこで日本人患者の実態調査、予後調査、酵素診断、病因解析を行ない次のような成果を得た. 1.日本人β酸化異常症患者の調査:アンケート等によって71例について調査した.日本人ではCPT2欠損症が最も多く、ついでVLCAD欠損症、グルタル酸血症2型の順であった.類縁疾患である有機酸血症の予後と比較したところ、β酸化異常症は乳児期以降の発症例が多いこと、知能予後は一般的に良い症例が比較的多いことがわかった. 2.VLCAD欠損症の研究:酵素診断、病因解析を行なった.現在までに21例の日本人患者を同定した.特にこの2年間で10例以上を発見し予想以上に多いことがわかった.欧米の症例に比べ、日本人患者の大部分が骨格筋型で軽例の多い傾向があった.臨床的重症度と残存酵素活性測定値の間には相関はなく、イムノブロットにおける酵素タンパク量と相関することが観察された.遺伝子解析において日本人には共通の変異が比較的多く、またphenotype/genotype correlationがあることが推察された. 3.グルタル酸血症2型の研究:日本人初のETF脱水素酵素欠損による症例を同定し、分子レベルで証明した.またあらたにETF欠損による日本人症例も3例同定した.ETF脱水素酵素欠損の症例も2例同定した. 4.GC/MSによるβ酸化異常症診断法の検討:検討した.簡便な血中遊離脂肪酸分析法を確立した.特にグルタル酸血症2型は、安定期の患者ではタンデムマスでも、GC/MSによる有機酸分析でも異常を見逃すことがあるが、血清分析がもっとも診断に有用なことを確かめた.また尿中有機酸分析で、ペルオキシソームβ酸化異常症における特徴を明らかにした.
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