Netherton症候群は、重症のアトピー症状(アトピー性皮膚炎、花粉症、高IgE血症、高好酸球血症)、魚鱗癬、毛幹異常(bamboo hair)を特徴とする疾患であるが、原因遺伝子であるセリンプロテアーゼインヒビターSPINK5の変異によりこれらの表現型が形成される機序は不明である。Netherton症候群におけるアトピー症状は、角質形成異常に起因するバリアー障害なのか、それとも、免疫系におけるSPINK5の機能低下により特定のプロテアーゼ系に脱制御が生じ、その結果としてアトピー症状を引き起こすのか、SPINK5は魚鱗癬の発症機構のみならず、アトピー性皮膚炎の分子遺伝学的な背景を解明する突破口となり得る、極めて興味深い遺伝子である。本年度は、SPINK5の遺伝子産物の特性を解析する目的で、まず、角化誘導をかけたヒト培養角化細胞からcDNAライブラリーを作製し、cDNAクローニングを行い、部分cDNA断片を融合することによりSPINK5の全長をコードするcDNAを作製した。シーケンシングにより全塩基配列を確認後、QIAexpress pQEベクターにサブクローニングし、大腸菌を形質転換させてHisタグ融合タンパクとして発現させた。一方で、トランスグルタミナーゼ1遺伝子欠損マウス皮膚のマイクロアレイ解析から、角化異常に伴い高発現するセリンプロテアーゼを見出した。このタンパクがSPINK5の標的としての可能性を探索するため、そのcDNA全長を同様にクローニングしpQEベクターに組み換えて、Hisタグ融合タンパクとして発現させた。今後、ごのセリンプロテアーゼとSPINK5のin vitroにおける相互作用、疾患における発現様式を解析し、疾患病態との関連性を追求する予定である。
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