スタンレー財団脳バンクの双極性障害、うつ病、統合失調症、対照群、各15名ずつの死後脳、前頭前野から、RNAを抽出し、オリゴdTプライマーでcDNAを作成し、cDNADNAマイクロアレイ(GeneChip)を用いて、遺伝子発現の網羅的解析を行った。これまでに報告されている加齢に伴う遺伝子発現変化が確認されたこと、すでに報告されている、統合失調症死後脳において発現量が変化していた遺伝子のリストを用いてクラスター分析を行ったところ、良好な分離ができたことなどから、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現の測定は信頼できるものであると考えられた。 各疾患で変化している遺伝子群を比較したところ、予想に反し共通部分は少なく、各疾患毎に特徴的な遺伝子発現変化が見られた。双極性障害では、神経伝達関連遺伝子の発現低下、分子シヤペロンや転写因子の発現増加などがみられた。これらのうち、多くはRT-PCR法により発現変化が確認できたが、確認できない遺伝子も多く見られた。双極性障害において発現が上昇していた53個の遺伝子を用いて、クラスター解析を行ったところ、ほぼ完全に両群が別のクラスターとして分類されることがわかった。無投薬の患者も、服薬中の患者と同じクラスターに分類されたことから、これらの発現変化の見られた遺伝子群に関して、服薬の影響は少ないものと考えられた。 今後はこの方法により、死後診断が可能となるかも知れない。また、今回遺伝子発現変化を見出した遺伝子は、双極性障害の候補遺伝子として、更に検討を行う必要がある。
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