女性の黄体期における睡眠・気分障害の時間生物学的基礎

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13470200
• 研究機関: 国立精神・神経センター
• 研究代表者: 内山 真 国立精神・神経センター, 精神保健研究所・精神生理部, 部長 (20221111)
• 研究分担者: 篠原 一之 獨協医科大学, 生理学教室, 助教授 (30226154)
• キーワード: 睡眠 / 眠気 / 月経前症候群 / 卵胞ホルモン / メラトニン / 視交叉上核 / ギャップ結合遺伝子 / 体内時計

研究概要

1)健常成人女性の黄体期における眠気の発現機序
健常女性8名を被験者とし、卵胞期と黄体期にそれぞれ24時間断眠後、26時間にわたり超短時間睡眠覚醒スケジュールを施行した。30分おきに10分間の睡眠脳波測定を行い、26時間にわたる眠気の変動を脳波的にとらえた。連続直腸温センサーを用いて、実験中の深部体温リズムを測定すると同時に、60分ごとに静脈内留置カテーテルより採血を行った。その結果、主観的な眠気については、卵胞期と比べ黄体期において正午前と夕方に眠気が強かった。夜間における自覚的眠気の差はみられなかった。睡眠脳波による客観的な眠気については、卵胞期と比べ黄体期において午前中に睡眠傾向が強かった。さらに、黄体期では日中に徐波睡眠を含む睡眠区間の出現回数が多かったが、夜間においては卵胞期と黄体期の間で有意な差はみられなかった。夜間のメラトニン分泌開始時刻および最大血中濃度の値について検討したが、有意な差はみられなかった。以上の結果から、健常女性の黄体期における眠気の発現機序については夜間睡眠の質的低下が原因ではなく、日中の眠気が一次的に強くなっていることが明らかになった。黄体期において日中に徐波睡眠を含む睡眠区間が多かったことは、徐波睡眠の発現が体温調節機構と密接に関係していることから考え、黄体期における深部体温の上昇と関連づけられる可能性がある。
2)ラットを用いた女性ホルモンの体内時計に与える影響の分子生物学的解析
卵巣摘除ラットに卵胞ホルモンを投与したところ、ニューロン特異的ギャップ結合遺伝子(Connexin36)の発現は体内時計である視交叉上核において特異的に上昇したが、グリア細胞特異的ギャップ結合遺伝子(Connexin43)の発現はSCNにおいて上昇しなかった。以上のことから、卵胞ホルモンは視交叉上核ニューロン間のギャップ結合遺伝子を増加させることにより、視交叉上核ニューロン間め同期を強めている可能性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Liu X, Sun Z, Neiderhiser JM, Uchiyama M, Okawa M, Rogan W.: "Behavioral and emotional problems in Chinese adolescents: parent an teacher reports"J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 40(7). 828-836 (2001)
• [文献書誌] Kim K, Uchiyama M, Liu X, Shibui K, Ohida T, Ogihara R, Okawa M: "Somatic and psychological complaints and their correlates with insomnia in the Japanese general population"Psychosomatic Medicine. 63(3). 441-446 (2001)
• [文献書誌] Uchiyama M, Shibui K, Hayakawa T, Kamei Y, Ebisawa T, Tagaya H, Okawa M, Takahashi K: "Larger phase angle between sleep propensity and melatonin rhythms in sighted humans with Non-24-hour sleep-wake syndrome"Sleep. 25(1). 83-88 (2002)
• [文献書誌] Kubota T, Uchiyama M, Suzuki H, Shibui K, Kim K, Tan X, Tagaya H Okawa M, Inoue S: "Effects of nocturnal bright light on saliva melatonin, core body temperature and sleep propensity rhythms in human subjects"Neurosci Res. 42(2). 115-122 (2002)
• [文献書誌] Endo Y, Shinohara K, Fueta Y, Irie M.: "Influences of cholinergic neurotoxin ethylcholine aziridinium ion on circadian rhythms in rats"Neurosci Res. 41(4). 385-390 (2001)
• [文献書誌] Shinohara K, Funabashi T, Nakamura TJ, Kimura F: "Effects of estrogen and progesterone on the expression of connexin-36 mRNA in the suprachiasmatic nucleus of female rats"Neurosci Lett. 309(1). 37-40 (2001)
• [文献書誌] Shinohara K, Morofushi M, Funabashi T, Kimura F.: "Axillary pheromones modulate pulsatile LH secretion in humans"Neuroreport. 297(2). 73-76 (2001)