研究概要 |
これまで我々は、齧歯類ではエストロジェンが概日リズム周期を短くすることと、そのエストロジェン効果がヒトでは見られないことを示してきた。しかし、ヒト女性でもエストロジェンによって概日リズム周期が短かくなる症例を発見した。その疾患メカニズムを明らかにするために、体内時計中枢である視交叉上核における時計遺伝子(Per1、Per2)のエストロジェンによる効果を検討した。その結果、エストロジェンは視交叉上核に発現するPer2の概日リズム位相を前進させ、振幅を減少させた。一方、視交叉上核のPer1の概日リズムはエストロジェンによって影響されなかった。以上のことから、エストロジェンはPer2遺伝子に作用し、周期を短縮している可能性が示唆された。Per2遺伝子発現はCLOCKとBMALによってポジティブに制御されている。一方、エストロジェンはエストジェン受容体に結合し、転写共役因子の作用の元に直接標的遺伝子の転写を制御する。そこで、転写共役因子(SRC-1,SRC-2,SRC-3)mRNAの視交叉上核における発現を検討したところ、SRC-1,SRC-2は視交叉上核に発現し、SRC-3は視交叉上核に発現しないことが明らかになった。さらに、SRC-1とCLOCKは結合することを明らかにした。かくて、エストロジェンはERE上のSRC-1とE-box上のCLOCKとの相互作用を変えることによって、Per2遺伝子発現を調節している可能性が示唆された。ヒトにおいて黄体ホルモンの眠気および概日リズムに与える影響を調べるために、10分-20分超短時間睡眠覚醒スケジュール法(10分-20分法)を用い、1日を通しての眠気や睡眠傾向の時間的分布を脳波測定から検討し、女性の月経周期に伴う心身の不調の背景にある睡眠および概日リズムの変化を客観的に捉えることを試みた。その結果、黄体後期における日中の眠気の増加に関しては黄体ホルモンの中枢作用が大きな役割を果たしていることが分かった。おそらく神経ステロイドとしてのGABA神経系に対するagonisticな作用が関与していると考えられた。
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