BCL6転座による悪性リンパ腫発症の分子メカニズムの解析

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13470204
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 今田 和典 京都大学, 医学研究科, 助手 (20314213)
• キーワード: B細胞リンパ腫 / BCL6遺伝子 / t(3;6)(q27;p21)転座 / Histone H4遺伝子 / H4 / BCL6 fusion gene / somatic hypermutation / 遺伝子発現プロフィル / Real-time PCR

研究概要

B細胞リンパ腫のrecurrentな染色体転座であるt(3;6)(q27;p21)によってhistone H4遺伝子とBCL6遺伝子が結合する。我々は5例のt(3;6)転座の転座接合部をクローニングし塩基配列を解析した。その結果、H4上の切断点はエクソン中央部からterminal palindromeに分布し、BCL6のそれは転座のhyper-clusterにあった。両切断点近傍にはそれぞれ4個、8個のpoint mutationが認められた。従ってt(3;6)転座は免疫グロブリン遺伝子のsomatic hypermutationのメカニズムを介して生じると考えられる。次に、t(3;6)転座の構造を再現したH4/BCL6 fusion geneを発現プラスミドに組み込んだコンストラクトを構築しCOS7細胞に導入した。その結果、Bcl-6蛋白の発現レベルが著しく亢進し、抗Bcl-6抗体による免疫染色で核に粗大な顆粒状の構造物が認められた。Bcl-6の発現レベルはH4のプロモーター領域を欠失したdeletion mutantで減弱した。Bcl-6を高発現した細胞の遺伝子発現プロフィルを解析すると、一部の遺伝子を除いて多くの遺伝子の発現がdown-regulateし、Bcl-6が転写抑制因子であることと一致した。従って、t(3;6)転座によって一時的にせよBcl-6蛋白の発現が亢進し、細胞の遺伝子発現プロフィルを変化させるに至ることが明らかになった。しかし、悪性リンパ腫の臨床材料におけるBCL6 mRNAの発現レベルをreal-time PCRで定量すると、t(3;6)転座症例でのBCL6の発現レベルはむしろ低値を示した。従って、BCL6の発現亢進はリンパ腫の発症初期に関与することが示唆された。尚、平成14年度途中で、前研究代表者の大野仁嗣の退職に伴い今田和典が研究代表者を引き継いだ。

研究成果

• [文献書誌] Ueda, C. et al.: "Immunoglobulin (Ig)/BCL6 versus non-Ig/BCL6 gene fusion in diffuse large B-cell lymphoma corresponds to a high-versus low-level expression of BCL6"Blood. 99. 2624-2625 (2002)
• [文献書誌] Ueda, C. et al.: "Non-immunoglobulin/BCL6 gene fusion in diffuse large cell lymphoma : prognostic implications"Leukemia and Lymphoma. 43. 1375-1381 (2002)
• [文献書誌] Kurata, M. et al.: "Characterization of t(3;6)(q27;p21) breakpoints in B-cell non-Hodgkin's lymphoma and construction of the histone H4/BCL6 fusion gene, leading to altered expression of Bcl-6"Cancer Research. 62. 6224-6230 (2002)
• [文献書誌] 大野仁嗣: "悪性リンパ腫診療における可溶性インターロイキン2受容体α鎖の重要性-多施設共同研究-"臨床血液. 43. 170-175 (2002)
• [文献書誌] 大野仁嗣: "BCL6転座型リンパ腫の病態"分子細胞治療. 1. 585-591 (2002)
• [文献書誌] 大野仁嗣: "白血病入門 診断法 遺伝子診断"臨床医. 28. 2104-2106 (2002)
• [文献書誌] 高久史麿 編集(分担:大野仁嗣, 前迫善智): "Annual Review 2003血液(分担:遺伝子発現プロフィルによるリンパ腫の予後予測)"中外医学社. 240(124-129) (2003)