造血幹細胞の自己複製を誘導する可能性の高い細胞として我々は血管内皮細胞がその候補であることを解明してきた。この両者の細胞間の相互作用において重要な役割を果たす分子がTIE2受容体であり、本受容体は内皮、造血幹細胞にともに発現している。またTIE2の結合因子アンジオポエチンー1は造血幹細胞から分泌され、アンジオポエチンー1とTIE2のオート、パラクラインループが、1)両者の細胞間の接着、2)造血幹細胞の未分化性の維持、3)血管内皮細胞からの造血幹細胞の自己複製誘導分子の産生に関与することを証明してきた。そこでTIE2の活性化により制御を受ける遺伝子を明確にし、幹細胞性の新たな知見を得るためにTIE2の恒常的活性型遺伝子を作成し、血液細胞や血管内皮細胞株に遺伝子導入して、発現の左右される遺伝子につきマイクロアレイ、サブトラクション法を用いて遺伝子の単離を行った。多くの遺伝子の単離に成功したが、中でもE11(仮称)は種々の臓器の幹細胞レベルの細胞に発現し、造血幹細胞の発生機構にも関与する可能性がある。本分子は酵母からほ乳類まで相同遺伝子が存在し、C.elegansを用いてRNAi法にて発現を抑制すると幼虫の発生期に致死となることが判明した(投稿準備中)。そこで、現在本遺伝子のノックアウトマウスを作製し、造血幹細胞の発生に与える影響を観察したところ、ノックアウトマウスは胎生3日目で致死となることが判明し、造血異常に関しては解析が困難であった。また、幹細胞、血管内皮細胞の接着に関わると考えられる分子の候補としてgalectin-3を単離した。本分子は種々のインテグリンなどに結合して細胞接着能を制御するとともに、核内では細胞周期にも関与した。その結果galectin-3は血液細胞同士の細胞間接着を促進し、試験管内での解析系で、本分子の過剰発現により血管新生を抑制する効果があることが判明した。
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