造血幹細胞を用いた再生医療への応用のため、効率のよい幹細胞の試験管内増幅にむけ造血幹細胞の未分化性の維持や自己複製等の幹細胞性の維持の分子機序を我々が以前より造血幹細胞、血管内皮細胞に共に発現し、幹細胞の増殖機構に関与することをそのノックアウトマウスにおいて解明してきたレセプター型チロシンキナーゼTIE2の機能解析を中心に行なった。胎児肝や成体骨髄など造血組織では造血幹細胞の増殖が血管内皮細胞近傍で生じることが明らかになった。これら造血幹細胞はTIE2ばかりでなくTIE2の結合因子アンジオポエチン-1(Ang1)を分泌することが判明した。そこでTIE2が恒常的に活性化するTIE2の変異cDNAを作成しTIE2の詳細な機能を解析した。その結果TIE2の活性化は細胞死の抑制、細胞周期の遅延化、細胞外マトリックスへの細胞接着の増強を誘導することが判明した。さらに、TIE2が活性化する血管内皮細胞と血液細胞は選択的に接着することが明らかになり、造血幹細胞の分泌するAng1が内皮-造血幹細胞間の接着に関与し、これが引き金となり幹細胞の自己複製が誘導されると考察された。以上の研究結果に立脚し、TIE2の活性化により制御をうける分子につきマイクロアレイ法を用いて複数の遺伝子単離に成功した。我々がE11と呼ぶ新規の転写因子は極々の臓器の幹細胞レベルの細胞に発現し、本遺伝子のノックアウトマウスでは造血幹細胞の発生する9.5日目にはすでに胎生致死であることが判明した。今後造血細胞特異的なE11のノックアウトマウスを作成して造血幹細胞における機能を詳細にする。また、幹細胞、血管内皮細胞の接着に関わると考えられる分子の候補としてgalectin-3を単離した。今後galectin-3をTDB2遺伝子のプロモーター制御下で過剰発現するマウスを作成し、造血幹細胞性に与える影響を観察する。
|