本研究は「膵β細胞の再生医療」を実現することを視野におき、その実現のために必須である膵幹細胞の実体を明らかにするとともに、その増殖・分化の調節機構を明らかにすることを目的として行われた。まず、我々が確立した膵幹細胞様の性質をもつモデル細胞系AR42J細胞を用い、そのインスリン産生細胞への分化過程に関する研究を行った。まずこの細胞の分化過程を制御する分化誘導因子とそれによって誘導される転写因子の検討を行い、分化誘導因子アクチビンが内分泌細胞への分化決定を行ない膵ポリペプチドやATP感受性Kチャネルの発現誘導などを行うこと、またこのアクチビンが誘導する転写因子neurogenin3が内分泌細胞への分化決定に重要であることを明らかにした。次に膵幹細胞が存在する導管上皮における分化誘導因子アクチビンの発現調節について検討を行った。その結果、膵切除やストレプトゾトシンなどにより有効β細胞量を減少させると、膵導管におけるアクチビンの発現が増加することを明らかにした。これはβ細胞量の減少に対抗しておこる「代償性のβ細胞新生」において重要な役割を果たしていると考えられた。次に新生ラット膵導管から上皮細胞を採取し、これを培養する系を確立した。次にこの導管上皮細胞の培養系を確執し、この細胞が実際にin vitroでインスリン産生細胞へと分化するかを検討し、その分化誘導に重要な因子としてアクチビン・ベータセルリンを同定した。さらにその分化過程についても詳細な検討を行った。
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