本研究では、脂肪萎縮性糖尿病をモデルとしてレプチンの糖脂質代謝亢進作用の分子機構を検討した。脂肪萎縮性糖尿病モデルマウス(A-ZIPTg/+)にレプチンを0.1μg/hの流速で側脳室内に6日間投与したところA-ZIPTgの血糖値、インスリン、中性脂肪、遊離脂肪酸は正常化した。同用量のレプチン皮下投与では糖脂質代謝は改善しなかった。レプチンを過剰発現するA-ZIPTgマウス(LepTg/A-ZIPTg)では良好な糖脂質代謝が認められた。LepTg/A-ZIPTgに対する塩酸ブナゾジン15μg/mg投与では糖代謝に明らかな変化はなかったが、プロプラノロール6μg/g投与では耐糖能が悪化した。野生型マウスあるいはA-ZIPTgの耐糖能に変化は認められなかった。 Affimetrix社製のマイクロアレイを用いて15週齢雄性+/+、LepTg/+、A-ZIPTg/+、LepTg/A-ZIPTg及びレプチン投与24時間後のA-ZIPTg/+の肝臓における遺伝子発現プロフィールを検討したところ、A-ZIPTg/+では+/+に比較して解糖系、ペントースリン酸回路および脂肪酸合成及び分泌に関与する遺伝子の発現が亢進していた。一方、糖新生および脂肪酸酸化に関与する遺伝子の発現は低下していた。LepTg/A-ZIPTgではA-ZIPTg/+で認められる遺伝子発現の変化が+/+のレベルにまで改善した。レプチンを投与したA-ZIPTg/+では解糖系、ペントースリン酸回路および脂肪酸合成及び分泌に関与する遺伝子の発現は正常化したが脂肪酸酸化に関与する遺伝子発現は変化しなかった。 以上より、レプチンによる糖脂質代謝の改善は中枢神経系を介すること、少なくともその一部はβ交感神経系の活動亢進を介すること、レプチンの脂質代謝改善作用は高インスリン血症等の改善による二次的な作用であることが示唆された。
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