研究概要 |
我々は、これまでにSurgical Stressをさまざまな角度から研究してきた。今回はSurgical Stressが生体防卸、腫瘍増殖、および薬剤耐性に与える影響を、免疫学的視点に注目して検討してきた。 1)消化器癌患者、特に切除不能、術後再発患者の末梢血リンパ球において、CD3+,CD4+,CD8+リンパ球が健常者と比較して、有意に低下していることを見いだした。特に,腫瘍の進展度に応じて、末梢血中のCD8+,CD4+CD25にリンパ球の減少が見られ、さらにCD4+T細胞におけるCD25+細胞の割合が、腫瘍進行度、治療効果を反映している可能性が見いだされた。今後、Surgical Stressとの関係を検討する予定である。 2)ヒトの肝臓切除術後や、食道切除術後などの過大な侵襲の術後に、末梢血リンパ球とくにNK細胞のミトコンドリア膜電位が低下していることを明らかにしてきたが、術前ツムラ補中益気湯エキス顆粒(TJ-41)を内服した症例では、このミトコンドリア膜電位の低下がNK細胞において抑制されることを見出した。 3)同様に消化器癌患者において化学療法をうけた症例でも、末梢血リンパ球のミトコンドリア膜電位の低下が認められたが、TJ-41を内服した症例では、このミトコンドリア膜電位の低下がNK細胞において抑制されることを見出した。 4)ヒト大腸癌細胞株に5-Fuを曝露することによって得られた5-Fu耐性株において、pRbのリン酸化レベルとE2F-1の転写活性レベルが、親株と比較して、耐性株で増加していることを見出した。さらに、親株を5-Fuで刺激すると、pRbのリン酸化レベルとE2F-1の転写活性レベルが時間と共に増加することを見出した。 以上より、手術や化学療法による、NK細胞のミトコンドリア膜電位の低下と、その救済療法の可能性が示唆された。また、癌細胞の薬剤耐性獲得機構の解明へ糸口が得られた。今後チップによる検討を含め、症例を積み重ねていく予定である。
|