研究概要 |
食道癌は、腫瘍の増殖速度が極めて速く予後不良な難治性癌である。我々は、1980年代から食道癌の遺伝子解析を行ってきた。さらに、その研究成果を背景として1990年代後半から新しい治療戦略として遺伝子治療の基礎的検討を行ってきた。近年、頭頚部癌ならびに肺癌に対する遺伝子治療の臨床試験が開始されその安全性と有効性が明らかとなりつつある。これを背景として、我々は、食道癌に対する遺伝子治療の基礎的検討を行うと同時に基礎的検討によって、治療効果を確認したP53遺伝子治療について臨床試験計画を作成し、2年間にわたる審査の後、実施承認を得た。 本研究報告では、食道癌P53遺伝子治療臨床研究の現状と新しい遺伝子治療法の基礎的検討について述べる。現在までの基礎的検討によって、治療効果を確認した遺伝子は、P53,P33,P16,VEGF-R,TK,CD,IL-2の各遺伝子である。P53は、安全性の高く、すでに米国における臨床試験も開始されていることを受けて、2000年12月より臨床研究を開始した。2004年3月現在までに合計9例の進行食道癌患者に対して合計46回の遺伝子治療を実施した。有害事象としては、一過性の発熱、局所の疼痛などgrade2以下有害事象を認めるのみであった。2例がPDであったが、7例は、SDであった。このうち1例では、経口摂取不可能の状態が改善した。生物学的効果としては、導入したP53遺伝子が腫瘍細胞において発現していること、P21遺伝子が局所で発現誘導されていることなどが確認された。また、バイオハザードとしては、治療後1週間目で大部分の治療において生体排泄物中のウイルスが消失した。
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