研究概要 |
各種の消化器癌の発生の分子メカニズムが明らかになり、複数の遺伝子が多段階的に変異を起こし蓄積することで転移や治療抵抗性などの悪性形質を獲得することが知られるようになってきた。この悪性形質は同じ病型でも個々の患者でしばしば異なり、今後「癌の個性」を見極めた至適治療の選択が重要課題になる。今回の研究では、トランスレーショナルリサーチヘの展開を目指し、各種の腫瘍で潜在的ゲノム異常を分子細胞遺伝学的アプローチにより網羅的に探索し、見出されたnonrandomなゲノム異常を標的にして新規癌関連遺伝子の同定を進め、これらの異常の臨床病態への関わりを明らかにすることを目的とした。さらに体系的な遺伝子ゲノム異常の検出が可能なCGHマイクロアレイシステムを開発、導入してゲノム情報に基づく「癌の個性」診断法を確立を目指した。病型特異的ゲノム異常の探索を目的に、総計700以上のサンプルでCGH法によるゲノムコピー数異常解析を行った。2001年度(2001年12月末)において総計705例の腫瘍で解析を行ったが、うち消化器癌は、食道扁平上皮癌(細胞株42、症例29)、胃癌(細胞株25、症例105)、肝細胞癌(細胞株11、症例70)、膵癌(細胞株22)、大腸癌(細胞株5)、および薬剤耐性関連腫瘍(細胞株22)の解析を終了した。見出された新規増幅領域のうち1q21, 1q32, 2q31-32, 3q26-27, 5p12, 5p13, 9p24, 11p13, 11q22, 13q34, 14q12-13, 15q26, 17q22-23, 18p13, 20q等の領域で癌関連遺伝子の探索を進め、ATF3, CENPF(1q32)、SNO, EVI1, PIK3CA, TERC(3q26), SKP2, CDH6, PC4(5p12), CD44S(11p13), cIAP1(11q22), BAZ1A, SRP54, HNF3A(14q12-13), IQGAP1(15q26), PS6K, TBX2(17q22-23), TS, YES1, TGIF, HEC(18p),の既知遺伝子が増幅の標的であることを明らかにした。特に、新規11q22増幅の標的がアポトーシス阻害cIAP1であることを明らかにした。また、224個の癌関連遺伝子を張り付けたCGHアレイを作製し、本システムにより1コピーレベルのゲノム異常も検出可能であることを確認した。
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