研究概要 |
日々刷新されているゲノム情報を基盤に疾患の新しい診断、治療、予防法の開発が推進されており、基礎研究で得られた成果を臨床医学に展開する「トランスレーションリサーチ」に多大な期待が寄せられている。私たちは、ゲノム一次構造変化の探索と新規ゲノム異常を標的にした疾患遺伝子の同定アプローチを体系化し、これを実践し、複数の癌や遺伝疾患の関連遺伝子を発見してきている。例えば、食道扁平上皮癌(ESC)では高頻度11q22増幅の標的遺伝子がアポトーシスインヒビターのIAPファミリーの一員であるcIAP1であることを同定し、さらに子宮頚癌においてもcIAP1増幅を高頻度を検出し、子宮頚癌の局所再発において新しいバイオマーカーとなることを見出した。次に、ESC細胞株で14q12-13領域に高頻度の増幅を見出し,5個の既知遺伝子(BAZ1A, SRP54,NFKBIA, MBIP, HNF3A)と2個の未知遺伝子が標的であることを明らかにした。また、ESC細胞株で検出された18p11.3増幅の標的遺伝子が、c-yes, Thymidylate synthase(TS),TGIFの3遺伝子であることを明らかにした。肝細胞癌の13q34増幅の標的は転写因子DP1に加え、ユビキチン・リガーゼE3の構成分子CUL4A(cullin4A)、ユビキチン・リガーゼAPCのサブユニットCDC16であると同定した。これらは癌の個性診断のバイオマーカーとして、あるいは創薬の標的分子候補として注目されている。加えて、構想より5年を経てBAC/PACクローンを搭載した高精度・高密度アレイを構築した。これは約0.7Mbの解像度とヒト全ゲノムの約1/3をカバーする世界的にも最高精度のツールであり、癌の病態解明の糸口となる潜在的ゲノム構造異常の検出に威力を発揮するものと期待されている。
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