研究概要 |
正常上皮細胞としてラット腸上皮(RIE-1)細胞を,野生型DPC4株として膵癌細胞株PANC-1を,DPC4完全欠失株として膵癌細胞株BxPC-3,大腸癌細胞株SW480.7,乳癌細胞株MDA-MB-468を使用した.RhoB変異遺伝子(N19RhoB, V14RhoB)をRIE-1細胞,PANC-1細胞に移入し,変異RhoB発現安定株を樹立.TGF-βによる遊走能・浸潤能をBoyden chamberを用いて検討しTGF-β誘導性の形態変化を観察するとともに,E-cadherin・ZO-1,Vimentinを指標に上皮間葉系細胞化生(EMT)を検討した.RIE-1細胞,PANC-1細胞において,TGF-βは時間依存性にRhoB発現を集積したのに対し,RhoA発現はPANC-1細胞で抑制,RIE-1細胞で不変であった.RIE-1細胞では,TGF-β刺激後7日後にEMTを認めたのに対し,PANC-1細胞では2日後から認めた.TGF-β刺激により,PANC-1細胞の遊走能・浸潤能は亢進したが,E-cadherin・ZO-1発現は抑制された.DPC4欠失3株では,ZO-1発現は抑制されたものの,遊走能・浸潤能,E-cadherin・Vimentin発現に差は無かった.N19RhoB・PANC-1細胞においてはTGF-β誘導性EMTおよび遊走能・浸潤能に変化無く,E-cadherin・ZO-1発現は増強した.一方,V14RhoB・PANC-1細胞ではTGF-βの有無に関わらず線維芽細胞様形態をとり,高い遊走能・浸潤能を示すとともに,E-cadherin・ZO-1発現は減少した.膵癌浸潤転移に,TGF-β/RhoB/MAPK経路とDPC4をはじめとするTGF-β/smad経路による抑制機構が存在する可能性が示唆された.
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