研究概要 |
スキルス胃癌原細胞株(OCUM-2M;以下2M)を胃壁に移植する方法により,高率に播種性腹膜転移を形成する細胞株(OCUM-2MD3;以下D3)を樹立した.腹膜中皮細胞に対する接着性は,D3の方が2Mに比べ有意に亢進していた.中皮細胞が細胞表面に発現しているヒアルロン酸に対する接着性も,D3の方が冗進していた.この接着能は,抗CD44H抗体により抑制された.以上のことより,腹膜中皮細胞への接着には,癌細胞に発現する接着分子CD44Hと中皮細胞上のヒアルロン酸との接着が関与していることが判明した.つぎに癌細胞と,腹膜間質成分との接着性を検討した.その結果,LamininやFibronectin, Collagenなどの間質成分への接着性は,D3の方が2Mに比べ有意に亢進していた.D3細胞は,α2β1,α3β1-integrinをより強く発現していた.さらにD3細胞の接着性は抗α2β1,抗α3β1-integrin抗体の添加で抑制された.以上のことより,中皮細胞下マトリックスとの接着には,癌細胞に発現するα2β1,α3β1-integrinが関与していることが判明した.以上の転移機序の結果から,抗CD44抗体の接着阻害効果や,β1-integrinの阻害剤である接着ペプチドArg-Gly-Asp(RGD)およびTyr-lle-Gly-Ser-Arg(YIGSR)による腹膜転移抑制効果を検討した.腹膜播種性転移マウスに,抗CD44抗体やRGDまたはYIGSRを投与することにより,D3の腹膜基底膜成分への接着・浸潤性は有意に抑制された.以上,接着ペプチドにより,腹膜播種性転移を抑制しえる可能性が示唆された.RGDやYIGSRは副作用が少なくその効果が期待された.
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