頑痛症の一つとして知られる求心路遮断痛に対し、治療として行われている大脳皮質運動領野電気刺激療法motor cortex stimulation(以下、MCS)の作用機序について、疼痛のマーカーの一つとされるc-fos遺伝子の発現の程度を比較することにより検討した。【対象】成熟ネコ、体重1.5〜3.5kg、15頭。【実験方法】ネコを、三叉神経節を凝固破壊した求心路遮断痛モデル、三叉神経節凝固破壊後にMCSを加えたMCS群、及びコントロール群の各5頭3群に分けた。各群作製後、一定の期間をおいて、脳を摘出し、c-fos遺伝子の発現部位と程度を免疫組織学的に検討した。【結果】コントロール群と比較し、(1)三叉神経脊髄路核において、求心路遮断モデルと破壊後刺激を加えたMCS群では、凝固破壊側と同側でc-fosの発現が増加したが、両群間での有意差はなかった。(2)帯状回では、求心路遮断痛モデルで両側性にc-fosの発現が見られ、MCS群では更に発現が増加した。(3)島・頭頂葉弁蓋部においては、求心路遮断痛で両側性にc-fosの発現が増加し、MCS群ではこの発現増加が維持された。【結論】求心路遮断後に、帯状回、島・頭頂葉弁蓋部でニューロンの賦活化が起こり、これが遮断痛の発現に深く係わっている。三叉神経節凝固破壊ネコに対するMCSの除痛効果は、痛覚二次ニューロンに対する下行性の直接的な抑制効果ではなく、帯状回の賦活化による上位中枢での変化がその根底にあると考えられる。
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