MEKはMAP kinaseの経路にあり細胞内シグナル伝達を担う。成長因子レセプターのシグナルを伝達し、神経細胞保護的に働くと考えられていた。しかし最近MEK活性を抑制する薬剤により、in vivoおよびin vitroの神経細胞死が抑制できることが報告されている。脳虚血後にMEKが活性化されていることが明らかとなっているが、MEKの活性化により神経細胞死が引き起こされるのかどうかが、いまだ明確になっているとは言えない。本研究ではMEKは神経細胞死のシグナルを伝達するのかどうかを明らかにすることを目的とした。 ラット胎仔初代培養神経細胞(E18)を用いて、アデノウィルスベクターにより活性型MEK1を遺伝子導入し、神経細胞死が起きるかどうか調べた。神経細胞死は培養上清中のLDHの放出量で定量化した。感染量をMOI=1、2、5、10と増加するにつれ、用量依存性にLDH放出が増加した。免疫染色にても活性型MEK遺伝子導入3日後にMAP2陽性となる生存神経細胞数が減少した。 次いでMEKのインヒビターであるU0126で、活性型MEK1を遺伝子導入による神経細胞死を抑制できるかどうかを調べた。ラット一次培養神経細胞に活性型MEK1アデノウィルスをMOI=5で感染させると同時にU0126を投与した。U0126を1、3、10uMを培養上清中に投与することにより、用量依存性にこの神経細胞死が抑えられた。 ラット成獣にMEKインヒビターであるU0126(100mg/kg)を腹腔内投与し、30分後に中大脳動脈を閉塞して脳梗塞を作成し、梗塞抑制効果があるかどうかを検討した。偽薬投与群では大脳半球の梗塞層は91.86mm3であったのに対し、U0126投与群では126.3mm3で、有意差はなかったが、U0126投与群の方が梗塞層が大きい傾向があった。
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