研究概要 |
本研究では、多数の臨床検体を収集して腫瘍バンクを作成し、それらの腫瘍検体に対し、染色体の欠損(1p,19q,10q, CDKN2N)や遺伝子の変異(TP53)、増幅多数の症例についてのこれらの遺伝子マーカー(EGFR, CDK4)などを調べた。その結果、1p欠損を伴う腫瘍の多くは乏突起神経膠腫であり、また、乏突起神経膠腫の約60%に1pの欠損が認められることを再確認した。また、1pの欠損は多くは19qの欠損を同時に伴っていた。染色体1pの欠損のない突起神経膠腫にはp53の遺伝子変異が多く認められた。 次に、乏突起神経膠腫の化学療法感受性関連遺伝子、および染色体1p上にあると想定される癌抑制遺伝子同定を目的とし、マイクロアレイ(DNA chip)による遺伝子発現プロファイル解析を行った。その結果、乏突起神経膠腫のうち化学療法感受性が高く、染色体1pの片側アレルの欠損を伴うタイプで、有意に発現が変化している209遺伝子を初めて同定することができた。また、染色体1p上の癌抑制遺伝子と思われる123遺伝子の発現が減少していることも確認した。さらに、星細胞腫や神経膠芽腫に対してGene chipによる遺伝子発現プロファイル解析を行い、乏突起神経膠腫との比較解析を施行した。その結果、乏突起神経膠腫の化学療法感受性が高いタイプで特徴的に増幅されている遺伝子は、ニューロンに発現の高い遺伝子群であることが判明した。また、星細胞腫や悪性神経膠芽腫に特徴的に発現されている遺伝子もいくつか同定された。解析した星細胞種(WHO Grade II)のうち2例は、悪性度の高い神経膠芽腫(WHO Grade IV)と発現プロファイルが似通っていたが、これらの症例の予後は実際に不良であり、臨床的にも神経膠芽腫に近い経過を示した。 このように遺伝子発現プロファイルは個々の症例の予後を推定するツールとなりうる。また、遺伝子発現プロファイルと治療効果との関係が広く解明されれば、疾患毎ではなく患者毎により効果の高い治療法を提示することが可能となるであろう。
|