研究概要 |
神経疾患に対する新たな治療法として、神経幹細胞や胚性幹細胞の移植による再生医療が注目されている。一方、成体脳には神経への分化能を有する神経幹細胞(前駆細胞)が存在することも示されている。本研究では、これらの自己神経幹細胞を用いた修復療法を開発することにあり、本年度はラットの一過性前脳虚血モデルにて、内在性の神経前駆細胞を利用した海馬錐体ニューロンの再生誘導と脳機能回復が可能か否かを検討した。虚血後の海馬遅発性神経細胞死により7日目にはCA1領域の神経細胞は完全に脱落変性したが、28日後には9%の細胞が存在し有意な増加が見られた。虚血後2日より3日間FGF-2+EGF(脳室内)を持続投与したところ、28日後の細胞数は未治療群の約4倍、正常群の約40%にまで回復した。同時期にBrdUを腹腔内投与すると、CA1錐体細胞層に新生した細胞は、BrdU陽性でかつ神経細胞特異的マーカーを発現しており内在性神経前駆細胞に由来するものであると考えられた。DiI, retrovirus脳室内投与により、これらの細胞は海馬周囲傍脳室領域に由来することも判明した。これらの細胞は神経回路網も再構築しており(シナプス形成、軸索進展)、機能的なレベルでの回復も認められた(LTPおよびwater maze test)。本研究の結果は、内在性神経前駆細胞を用いた新たな神経再生誘導療法の可能性を大きく広げるものと考えられる。 本研究を基に、次年度はこれらの海馬CA1領域での再生至適化の条件や薬剤の検討、年齢による変化等を検討予定である。
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