神経疾患対する新たな治療として、移植や再生に基づく機能再建療法が注目されてきている。特に、自己複製能と多分化能を有する神経幹(前駆)細胞が、成熟哺乳類の脳内に存在することが明らかとなり、これらの内在性自己神経幹(前駆)細胞を直接賦活して機能再建を行う治療法が新たに提唱された。我々は、本治療法の可能性を探るため、従来non-neurogenic regionとされる成体ラット海馬の虚血性神経細胞死モデルを用いて検討した。その結果、海馬CA1領域近傍に内在性神経幹細胞が存在することが新たに判明した。それらの幹細胞は、成長因子EGFとFGF-2を虚血後に投与したところ、その増殖は著明に増強され海馬CA1領域で平均40%の神経再生を得ることが出来た。さらに、これらの細胞では形態学的に神経軸索とシナプスの形成が確認され、電気生理学上は長期増強現象が回復し、かつ水迷路試験による行動解析にても認知機能の改善が確認された。本研究で、内在性修復機構を成長因子投与によって賦活することで神経細胞再生による個体レベルでの機能回復が可能なことが示された。これらの事実は、従来non-neurogenic regionも含めて、新たな神経再生誘導療法の可能性を大きく広げるものと考えられる。 一方、遺伝子改変動物での解析を容易にする為に、マウスの遅発性神経細胞死モデルの開発を試みた。側副血行を遮断するために両側頸動脈と脳底動脈をクリップにて14分間一時閉塞するモデルを開発し、海馬CA1領域での均一な神経細胞死をBL6系統にて得ることができた。本モデルは、遅発性神経細胞死に影響を及ぼす遺伝子、及びその後に生じ得る神経再生に関与する遺伝子の解析に有益なものと考えられ、今後の応用が期待される。
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