研究概要 |
我々はこれまでに神経膠芽腫の浸潤に細胞外マトリックス分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP)が重要であると報告してきた。本研究ではMMPの中でも特に重要とされるMT1(membrane type1)-MMPに対する抑制分子の探索を行い,得られた遺伝子の機能解析を行った。発現クローニング法により、MT1-MMPの新規阻害因子として脳細胞外マトリックスの構成成分であるプロテオグリカンN-Tesを同定した。N-TesはMT1-MMPによるMMP-2の活性化を阻害し、阻害活性はN末端の110アミノ酸領域にマップされた。同様の阻害活性はTestican family (TF)のT-3,T-1でも認められたが、T-2は阻害しなかった。TF間の相互作用を検討した結果T-2はT-1,T-3,N-Tesと結合することにより,その働きを阻害することが分かった。その結合,サイトはT-1,T-3,N-Tesのextracellular calcium binding (EC) domainとT-2のunique domainであった。N-TesのEC domainを欠失した変異体(Δ122)はMT1-MMPを抑制し,かつT-2との結合を逃れた。Wound assayの結果もこれと矛盾しない所見であった。またヒトglioma組織におけるTFの発現および局在を検討した結果,TFの発現量はいずれもglioblastomaで有意に低く,その局在はneuronで強く,腫瘍細胞では弱かった。発現量はTFのうちT-2で最も高かった。T-1,T-3,N-TesはMT1-MMPを阻害することにより神経膠芽腫の浸潤を抑制するが,脳組織内に比較的多量に存在するT-2がT-1,T-3,N-TesのMT1-MMP阻害能を解除し浸潤を促進させる。Δ122は抗浸潤治療の候補分子になり得ることが示唆された
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