研究概要 |
(目的)アデノウィルスベクターを用いた神経栄養因子遺伝子導入が脊髄再生におよぼす効果を検討すること。 (方法)1.COS-TPC法を用いてβ-galactosidase(LacZ),Brain-derived neurotrophic factor(BDNF),Neurotrophin-3(NT-3)の各遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを作製する(それぞれAdLacZ,AdBDNF,AdNT-3)。 2.COS細胞にそれぞれのベクターを感染させて培養上清を採取し、western blot法にて目的蛋白の発現を確認する。 3.ラット胸髄完全切断モデルを作製する。脊髄断端にAdLacZを注入し、時間経過で標本を作製、X-gal染色を行い導入遺伝子の発現動態を検討する。 4.同様のモデルにAdLacZ,AdBDNF,AdNT-3を注入し、行動学的評価を行う(BBB scale)。 5.損傷後6週で神経トレーサーfluorogoldを腰膨大部に注入し切断部を越えて再生した軸索を逆行性に標識する。 6.損傷後6週で行動学的改善が得られた一部のラットに対し、初回切断部の頭側で再切断を行い再び行動評価を行う。 (結果)COS細胞上清をサンプルとしてWestem blot法を行うと、AdBDNF,AdNT-3では感染させたウィルス量に応じて目的蛋白の発現が増していた。X-gal染色では、ベクター注入後1週をピークとして注入剖近傍・脳幹の下降性軸索起始核(赤核・前庭核など)に陽性細胞を認めた。BBB scaleを用いた行動学的評価の結果、AdLacZを注入したラットでは平均スコア0.4点とほとんど改善が認められなかったが、AdBDNFを注入したものでは後肢の動きが観察され、平均スコア6.0点と有意な改善が得られた。AdBDNFを注入したラットの一部で初回切断部頭側での再切断をおこなったところ、それまでに得られた行動学的改善は失われた。Fluorogoldを用いた逆行性トレーシングの結果、AdLacZを注入した群では脳幹部に標識されるニューロンは全く認めなかったが、AdBDNFを注入した群では赤核に一部標識されるニューロンが認められた。 (考察)行動学的解析より、AdBDNF注入により行動学的改善が得られた。逆行性神経トレーサーおよび再切断実験の結果より、この行動学的改善は脳幹部からの下降性軸索の再生によりもたらされたものと考えられた。すなわち、アデノウィルスベクターを用いたBDNF遺伝子導入により、下降性軸索の一部再生および後肢機能の部分的改善が得られた。
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