前年度に得られた研究成果から、本研究の為に独自に開発してきた組織特異的遺伝子トラップベクターは、必ずしも満足のいく性能のものではないことが明らかになった。そこで本年度はまずベクターの改良を念頭に置いて、幾うかの点について再検討を行った。その結果用いているIRES(Internal Ribosome Entry Site)の機能が予想以上に悪いことが明らかになった。そこでIRESの塩基配列を再度解析し直したところ、突然変異の存在が明らかになった。こうした変異がIRESの機能低下と相関しているのかどうかは必ずしも明らかではなかったが、取りあえず野生型の脳心筋炎ウイルス由来のIRES配列に切り替えたところ、遺伝子トラップの特異性と効率が格段に改善された。そこで現在この新しいベクターを用いて軟骨特異的遺伝子の単離を精力的に進めている。 既知遺伝子の収集については、主に理化学研究所が公表しているFANTOM cDNAデーターベース、およびGenBankに登録されているcDNAデーターベースから、まずは軟骨関連の遺伝子のみを選び出す作業から始めた。その結果、現在利用可能なデーターベースに登録されている軟骨関連の遺伝子数は、概ね600程度であることが判明した。しかも機能が予想されるものについては高々200種類程であり、それ以外は機能未知であった。そこで次にこの遺伝子リストの中から、まずは転写因子とマトリックス成分をコードすると思われる遺伝子を選び出し、その発現様式をマウスATDC5の軟骨分化系で順次解析を進めている。具体的には選び出された遺伝子について、まず対応するcDNAをPCRで合成し、それをプローブとしてノーザンハイブリダイゼーション解析を進めている。
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