研究概要 |
1.本年度論文とした研究 喫煙は術後肺合併症の大きなリスクファクタである。すでに喫煙により肺胞マクロファージ(AM)の抗菌能と炎症反応が著しく低下することを私は報告してきた。今回AMの機能の正常化にどのくらいの禁煙期間が必要かを検討した。その結果抗菌能の回復には3月を要し、炎症反応の正常化には6月要することが明らかとなった(Kotani et al. Anesthesiology 2001 ; 94 : 999-1006)。 また抗菌能を抑制することなく、炎症反応を抑制する薬物療法として、プロスタグランディンE1(プロスタンディン、以下PGE1)の術中投与がAMに及ぼす影響を検討した。手術時間が遷延するにつれて増強する炎症反応はPGE1で著明に抑制された。一方抗菌能の減少は軽度であった。今後PGE1は周術期の肺機能保全のため検討されるべき薬剤と思われる(Kotani et al, Critical Care Medicine 2001 ; 29 : 1943-9)。 2.分子生物学的研究の進達度 今年度の研究から表皮細胞を標的としたIL-10の遺伝子注入により大量に血中レベルを上昇させることに成功した。予備実験ではラットにおけるエンドトキシンショックによる肺障害を軽減した。この効果を確認して結果を論文化する予定である。 また同時に検索した接着分子の検討では、従来好中球マクロファージ系に強く発現するCD11b, CD11c, CD54, CD49dなどは、手術侵襲により強くリンパ球に発現することを見い出した。これは全体の10%以下のリンパ球が炎症による好中球マクロファージ系の活性化を強く制御しているという初めて結果である。これも近く公表する予定である。
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