研究概要 |
末梢組織の炎症によりallodynia, hyperalgesiaの状態が誘起される。これらの知覚異常に対し脊髄後角細胞の過敏化(central sensitization)が関与すると考えられているがその機序は明らかでない。また、末梢組織の炎症によって脊髄におけるプロスタグランジンE2(PGE2)の産生が増加し、脊髄後角における痛覚伝達を促進することか報告されている。今回、私たちは後根付き脊髄スライス標本を用いて後角細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い、後根刺激によって後角細胞に誘起されるシナプス電流に関して正常ラット及びCFA炎症モデルを比較した。また、同様のスライス標本を用いてPGE2の後角細胞に対する作用を検索した。正常ラットでは後根刺激により脊髄後角第2層(substantia gelatinosa, SG)ニューロンに誘発されるシナプス電流はAδ fiberを介するものが主体であり、約25%のSGニューロンにのみAβ fiberによる興奮性シナプス後電流(EPSC)が観察された。それに対し、CFAラットでは約60%にAβ fiber入力が認められた。また、Aβ fiberの刺激強度で誘発されたEPSCの平均潜時はCFAラットにおいて有意に短縮した。PGE2の灌流投与により約半数の後角ニューロンに内向き電流が観察された。この内向き電流はCa2+ freeまたはtetorodotoxin存在下においても観察された。また、この内向き電流は非選択性陽イオンチャネルブロッカーのflufenamic acid (FFA)によりブロックされた。 以上の結果から、末梢組織甲炎症により正常では侵害性入力が主体である後角浅層部に対する非侵害性入力が増加することが示唆された。また、PGE2は脊髄後角細胞を直接脱分極させることによりcentral sensitizationに関与する可能性がある。
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