研究概要 |
末梢神経損傷後の慢性痛の病態進展過程に、末梢知覚神経系および脊髄神経系の変調(神経可塑性)が主たる機序と判明し、この病態進行をいかに抑制し、また傷害された細胞の再生能をいかに高めるかが治療の重要な課題とされる。 13年度は,ラットニューロパチックペインモデルを用い、1)脊髄神経系の神経可塑性における分子生物学的機序の確認を行った.雄SDラットを用い、左坐骨神経絞扼モデルを作成した.また、大槽よりITにループ型マイクロダイアリシスプローべを挿入し,透析液のglutamate濃度をHPLC法で測定した。絞扼術前,後3,5、8、14日目における熱刺激に対する反応(ホットボックス)を観察し,5および14日目に灌流固定を行い,脊髄を摘出したのち,免疫組織学的評価(c-fos蛋白,TUNEL染色,HE染色)を行った. その結果,坐骨神経絞扼により,熱性痛覚過敏が起き脊髄glutamate放出が経日的に増加し、急性期-亜急性期に脊髄表層においてc-fos蛋白の誘導と小型細胞のアポトーシスが見られ,遅発生に(14日)介在ニューロンの壊死が認められた.したがって,glutamate神経の過剰興奮が脊髄神経可塑性を誘因し,遺伝子発現やアポトーシスを引き起こし障害が発現するものと考えられる.その後,介在ニューロンが壊死すると脊髄神経系の調節機構が消失し,症状が慢性化するものと示唆される. 本研究から,ニューロパチックペインの発現には,1)脊髄glutamate神経の過剰興奮に起因して,細胞内シグナリングー核内プロセス変調が起き,アポトーシスを招来し,これが症状発現に関与する可能性があること.さらに,慢性痛への移行には,介在ニューロンの易障害性が関与するものと示唆される。このように神経一免疫回路網の理解がさらにすすんだといえる.今後,治療に向けて栄養因子(グリアとの相互作用)の合成誘導が細胞死の過程を修復し、機能回復をもたらすかどうかを明らかにしたい。
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