研究概要 |
1.皮膚切開による痛覚過敏の研究:ヒトにおける検討 (1)ヒト前腕部に4mmの皮膚・皮下・筋肉に至る小切開を加えた手術侵襲モデルを開発し,一次性および二次性痛覚過敏(primary & secondary hyperalgesia,以下PH, SH)の進展と維持の機序を検討した(Anesthesiology 2002;97:550-559).PHのみならず,SHも末梢神経における感受性亢進(peripheral sensitization)をもとに進展するが,一旦進展した後は,障害された部位の興奮性増大とは無関係に維持されることが示された.また障害部にあらかじめ投与された局所麻酔薬はPHの進展には影響を与えないことが示され,この術後痛モデルではpre-emptive analgesiaが見られないことが示された. (2)上記(1)のモデルを用いて,術後痛に有用な治療法を調べるため,リドカイン静注投与の効果を検討した(Pain 2002;100:77-89).切開前に投与されたリドカイン静注投与はSHの進展を抑制するが,PHの進展には影響がなかった.一日進展した後のリドカイン静注投与もPH, SHを抑制するが効果は一時的であった.こうして,術後痛に対する局所麻酔薬の投与は術前からの投与が有効で,術後,比較的長時間の投与が必要である可能性が示唆された. 2.皮膚切開によるラット脊髄後角膠様質ニューロンの特性変化:in vivoパッチクランプ法による検討 (1)ラットの腰部脊髄後角膠様質ニューロンをin vivoブラインドホールセルクランプし(-70mVで電位固定),受容野の皮膚,筋膜,筋肉に1cmの切開を加え,切開前後の特性変化を検討した(Pain Research,2003,in press).皮膚切開時にはEPSCの振幅と発生頻度が著明に増大し,以後緩やかに減少した.触・痛み刺激に対するEPSCの発生頻度と振幅は切開後30分〜1時間後に著明に増大した.本結果は,以前,われわれが行った脊髄後角V-VI層ニューロンの細胞外記録による単一ニューロンの活動電気記録とよく一致した.こうした脊髄ニューロンの反応性は,他の組織障害性痔痛モデルとは明らかに異なり,術後痛の機序に特有であることが示唆された.
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