シスチン尿症は、腎近位尿細管と小腸粘膜におけるシスチンおよび二塩基性アミノ酸の吸収障害に起因する。シスチン尿症の原因遺伝子として同定されていたrBATは685個のアミノ酸からなる約78kDaの蛋白をコードする。現在までに64個の遺伝子変異が報告されているが、その内の5種は我々が新規に見出したものである。我々はもう一つの原因遺伝子であるBAT1の単離に成功した。これは487個のアミノ酸をコードする約40kDaの蛋白である。BAT1遺伝子産物は12回膜貫通型蛋白でありアミノ酸トランスポーターとして機能していると考えられる。rBATにコードされる蛋白はアミノ酸輸送体そのものではなく、輸送系を活性化する蛋白として機能していることが明らかになった。41名のシスチン尿症患者を対象にBAT1遺伝子の変異を解析したところ、35例に7種類の変異を認めた。特にP482Lのミスセンス変異が75%(31例)を占めた。この変異は欧米人の解析症例に全く見られず、日本人特有の変異と思われる。このBAT1のC末端、すなわちstop codonのわずか6個前の変異によってシスチン吸収機能の低下が起きており、蛋白そのものの構造が変化したというより調節因子との結合が阻害されたと考えられた。rBAT遺伝子の変異を有する症例はBAT1遺伝子変異を有する症例よりも再発頻度が低いという結果が得られた。さらに、rBATおよびBAT1それぞれ個々の遺伝子変異のタイプと臨床的重症度(尿中シスチン排泄量、結石再発など)との関係が一部判明してきた。これらの結果は患者一人一人の遺伝子異常に基づくオーダーメード医療へ応用できるものと思われる。未発症保因者の発症予防にも役立つであろう。さらに、BAT1のC末端部と調節因子との結合メカニズムの解明は遺伝子治療の新たな方法の開発につながるものと考える。
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