研究概要 |
腎細胞癌は成人に発生する腎悪性腫瘍としてはもっとも頻度の高いものであるが、現在のところ手術療法が唯一の確立された治療法であり難治性癌の一つとされる。従来より14q領域の欠失が淡明細胞型腎細胞癌の進行、転移に関わっているらしいことはわかっていたが、これまでのところ明らかな癌抑制遺伝子については同定されていない。本申請では第14番染色体長腕に存在すると考えられる、腎細胞癌の進展に関わる遺伝子を同定すべく研究を進めた。まず14番染色体長腕上に存在する既知の候補遺伝子についての解析を行った。CDKN3;14q22、TNFAIP2;14q32、FOS;14q24、IκB(I-kappa Bα);14q13について検討した。I-kappa Bについては腎細胞癌における発現源弱は認められずさらに全Exonについて変異の有無を検討したが、Exon 4,5,6にそれぞれsingle nucleotide polymorphism (SNP)を認めたが体細胞変異は認めなかった。したがって、I-kappa Bが腎癌の癌抑制遺伝子として寄与している可能性は少ないと考えられた。同様にCDKN3,TNFAIP2,FOSほか約20の遺伝子について検討したがいずれも腎癌での発現源弱、変異は認められなかった。われわれは腎細胞癌における癌抑制遺伝子の不活化機構の1つとしてVHL遺伝子でも明らかにされたDNAのメチル化についても積極的に解析した。その中で転移浸潤機構に関与すると考えられるE-cadherin遺伝子の変化について詳細な検討を行った。候補遺伝子座でのメチル化による修飾を検討する中で腎細胞癌では複数の癌抑制遺伝子が不活化していることが判明した。特にp16,p15といった第9番染色体上の遺伝子群と第16番染色体上のE-cadherin遺伝子が同時に不活化している例が多く存在することが明らかになった。 さらに、腎細胞癌におけるE-cadherin遺伝子の変異・欠失の有無およびbiallelic methylationの可能性についても検討した。腎細胞癌においてE-cadherinの変異および欠失は認められず、腎細胞癌におけるE-cadherin遺伝子gene alterationの主たる機構はメチル化による遺伝子不活化であり、その多くはbiallelic methylationによるものと推測された。これ以外にもわれわれは精巣腫瘍のメチル化の変化についても詳細な検討を行い報告した。 現在、14q31上に存在する候補遺伝子が存在することが絞られ、当該遺伝子の機能について腎癌由来細胞株に野生型遺伝子を組み込むことにより、その癌抑制遺伝子としての機能を果たしているか否かを検討中である。
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