研究概要 |
我々は膀胱がん培養細胞株とその抗がん剤耐性株を樹立し、その薬剤耐性の分子機構の研究からABC(ATP binding cassette)トランスポーターが薬剤排出ポンプとして重要であることを報告してきた。代表的なABCトランスポーターのMDR1,MRP1,2,3についてはアドリアマイシンの薬剤耐性への関与が示唆されているが、膀胱腫瘍での発現についてはもちろん、アドリアマイシンとの薬剤感受性についても全く報告がなかった。そこで我々は今までの実験を発展させて、MDR1,MRP1,2,3について、膀胱腫瘍の臨床検体を用いて臨床経過における発現を定量的RT-PCR法と免疫染色で評価するとともに、膀胱内注入化学療法や全身化学療法で使用されるアドリアマイシンの薬剤耐性度をSDI法で評価した。アドリアマイシンを用いた化学療法後では、治療前に比べてMDR1,MRP1,2,3の発現量は上昇する傾向がみられ、またアドリアマイシンの耐性度とMDR1,MRP1,3のmRNAレベルは相関を示した。特にNDR1遺伝子は膀胱注入療法後再発腫瘍や全身化学療法後の残存腫瘍ではその発現量が有意に上昇し、アドリアマイシンの耐性度とも相関していた。このようにMDR1遺伝子は造血器腫瘍だけでなく膀胱腫瘍においても化学療法における重要な分子標的である事が示唆された。膀胱がんにおけるMDR1発現亢進の分子機構を明らかにすることで抗がん剤の治療効果を改善できる可能性が考えられるため、我々はその分子機構としてDNAメチル化に注目した。MDR1プロモーター領域のメチル化の程度と化学療法後の膀胱腫瘍でのNDR1遺伝子の発現は負の相関を示す事が明らかになった。 泌尿器科領域のがんで重要な薬剤であるシスプラチンの耐性についてもこれまでに膀胱がんにおける耐性機構及び、新しい排出機構を報告した。現在はマイクロアレイを用いてシスプラチン耐性株及び親株とで発現に差のある遺伝子の同定を行っている。今後、それらの遺伝子の機能解析を行いシスプラチン耐性の機序を明らかにしていく予定である。
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