研究概要 |
卵巣癌は女性性器に発生する悪性腫瘍のうちで最も予後不良の疾患であり、患者の死亡原因の多くは腹腔内播種性転移による。そこで、本研究は(1)卵巣癌播種性転移の細胞環境を解析し、(2)転移における卵巣癌細胞の遺伝子発現をcDNAマイクロアレイ解析により比較し、(3)それらに基づいて卵巣癌細胞の増殖、接着、浸潤、血管新生に関するin vitro解析、および播種性転移のin vivoモデル解析を行うことで、卵巣癌細胞の腹腔内播種性転移の分子機構を解明することを目的とした。 本年度は、卵巣癌細胞の播種性転移においてras類似のGTP結合蛋白であるRhoの役割を解析した。RhoはRhoA, RhoB, RhoCなどのfamilyで構成され、その活性化が細胞の運動や浸潤能に関与するとされるが、卵巣癌での発現は報告されていない。今回の研究において、RhoのmRNAおよび蛋白発現は良性腫瘍に比して癌で有意に高く、さらに癌の中でも原発巣よりも転移巣において有意に亢進していた。免疫組織学的にもRhoは癌細胞に局在し、転移巣で強発現していた。さらにin vitroにおいて、卵巣癌細胞を患者腹水中に存在するlyosphosphatidic acid (LPA)にて刺激するとRho発現の亢進および活性化が認められ、これに伴って浸潤能が亢進した。Rho発現増強による浸潤能亢進はRhoの特異的阻害剤であるC3 exoenzymeの添加で抑制された。また、卵巣癌細胞にstableにRhoを発現するベクターを導入したところ、この細胞はヌードマウスにおける播種性転移巣形成が著しく亢進した。以上より、卵巣癌の播種性転移にはRhoが深く関与しており、Rhoは新しい卵巣癌治療の分子標的となりうると考えられる。
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