本年度はカベオリンとジストロフィン複合体の関係から心筋におけるカベオリン3の研究をおおいに進め、いくつかの新しい知見が得られたので報告する。幼弱の骨格筋ではカベオリン3はT細管に発現するが、成熟するとともに消失し、細胞膜のカベオラのみに局在することがわかっている。しかし心筋での研究があまり進んでおらず、まず免疫電顕でカベオリン3の局在を確認したところ、成熟した心筋細胞でもカベオリン3はT細管に局在することがわかった。次に心筋T細管は常にZ帯に接することから、Z帯の主要な構成蛋白であるアルファアクチニンと免疫沈降を行ったところ、骨格筋には認められず心筋でのみ結合することがわかった。このことはカベオリン3とアルファアクチニンは心筋において構造上重要なパートナーであることを示唆する。なぜなら心筋の収縮弛緩に伴って、T細管も同様な運動をしなければならないからである。次に心筋の収縮運動が他の蛋白に対して生理的な役割を持ち得るかどうかを検討した。血管内皮細胞においてカベオラに局在するeNOSはカベオリンから負の制御を受けていることが知られているが、心筋におけるeNOSの局在はいまだ明らかとなっていなかった。そこでコンフォーカルレーザー顕微鏡や免疫電顕を行うことによって、少なくとも一部のeNOSがT細管に沿って局在することを突き止めた。免疫沈降を行うとeNOSがカベオリン3に結合することが明らかとなった。すでにeNOSが産生する一酸化窒素(NO)はリアノジンリセプターを活性化することが知られており、このことからアルファアクチニン・カベオリン3・eNOS複合体は心筋の収縮弛緩機構に重要な役割を担っていることが示唆された。
|