研究概要 |
糖尿病患者のインスリン療法開始後、糖尿病網膜症の早期悪化がおこることがある。我々は、ヒト網膜血管内皮細胞(HREC)を用いてインスリンによる好中球接着および接着分子の発現作用の有無を検討した。またラットを用いて生体内でもインスリンによる白血球集積作用の有無を検討した。 【対象と方法】HRECをインスリンを含むおよび含まない培地で培養し、好中球もしくは抗接着分子抗体を加えた。好中球の接着はミエロペロキシダーセアッセイで定量し、接着分子の発現は酵素抗体法で定量した。また、雄有色ラットに体重100gあたり0.2単位のインスリンを3回皮下注射したものと、コントロールとして燐酸緩衝生理食塩水を同様に皮下注射したものをそれぞれ、アクリジンオレンジロイコサイトフルオログラフィーを用いて網膜白血球集積を定量した。 【結果】HRECに対する好中球の接着率は培地のみでは14.1±0.2%、インスリン50μU/mlでは15.6±0.4%(P<0.05)、100μU/mlでは17.0±0.2%(P<0.001)とインスリンにより有意に増加した。接着分子は100μU/mlのインスリンによりICAM-1の発現がコントロールに比べ有意に亢進した(0.242±0.008,コントロール0.198±0.012;P<0.05)。VCAM-1、P-セレクチンおよびE-セレクチンでは有意差がみられなかった。雄有色ラットの網膜内白血球集積は,インスリン群が8.4±0.5cells/mm^2とコントロール群(3.4±0.3cells/mm^2)に比べ有意に増加した(P<0.001)。 【結論】インスリンにより白血球-網膜血管内皮細胞の接着およびICAM-1の発現が亢進した。網膜に捕捉された白血球は、急激なインスリン療法後の糖尿病網膜症の早期悪化に関与している可能性がある。
|