研究概要 |
マウスの切歯の発生は,口腔粘膜上皮の肥厚に始まり,蕾状期までは臼歯と同じ歯胚の形態変化をたどるが,帽状期歯胚に移行する際に,歯胚の成長方向が下顎の長軸に沿った方向に回転する.その後,唇側のエナメル上皮は下顎長軸方向に成長し,その成長端においてサービカルループを形成する.線維芽細胞増殖因子(FGF)-10の欠損マウスの解析から,サービカルループの形成にはFGF-10が重要な働きをしていることを示した(Development in press).さらにFGF-10を発現する間葉細胞もまたサービカルループから分泌されるシグナル分子によって同時に維持されていた.すなわち,切歯の幹細胞の維持にも歯胚の形態形成と同様に上皮-間葉の相互作用が働いていることが理解できる.マウス臼歯やヒトの歯の場合は,エナメル上皮はヘルトビッヒ上皮鞘となり,歯根端の方向へ成長しながら歯根象牙質ならびに歯周組織の形成を誘導する.エナメル上皮の一部はマラツセ残存上皮として歯根膜腔内に存在するが,多くの細胞はアポトーシスによって消失する.言い換えれば,歯周組織を含めた歯根形成には,FGF-10の発現が消失して,マウス切歯のサービカルループのような幹細胞の集団が形成されないことに意味があると思われる.発生過程から考えた場合,上皮と間葉の相互作用によって歯周組織の形成が誘導されるが,あるタイミングからは必要のない細胞が消失することも重要なのであると考えられた.
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