研究概要 |
本研究は,歯周病巣局所において病態の悪化とともに増加することが知られている難培養性の口腔スピロヘータから菌体表層成分を分離・精製するとともに,その構造を解析し,また,樹立したヒト歯肉上皮細胞株を用いて細胞活性化機構について明らかにしようとするものである.本年度は以下の結果が得られた.1.Treponema mediumから温水・フェノール法により粗抽出画分を抽出し,核酸分解酵素およびプロテイナーゼKで処理し,さらにゲル濾過によって精製し複合糖質画分を得た.各種組成分析および核磁気共鳴測定の結果,この画分はグラム陰性細菌に特徴的な成分であるリポ多糖体構造とは異なるものであった.2,嫌気的条件下で培養したT. medium, T. denticolaおよびT. vincentii菌体に界面活性剤を添加したリン酸生理食塩水中で37℃,30分間,緩やかに撹搾処理することにより,菌体表層タンパク質を抽出した.得られた遠心上清を蒸留水に対して透析後,凍結乾燥を行ない,タンパク質画分を得た.3.歯周外科処置により得られた歯肉組織から上皮細胞を分離し,Pa pillomavirus E6/E7遺伝子を導入することにより歯肉上皮細胞株(HGEC)を樹立した.HGECにおける菌体成分関連受容体であるCD14,Toll様受容体(TLR)2ならびにTLR4発現について検討したところ,同細胞株はTLR2陽性,CD14およびTLR4陰性であった.得られた菌体表層タンパク質画分は,樹立したヒト歯肉上皮細胞に対して濃度依存的に明確な炎症性サイトカインであるinterleukin-8(IL-8)を産生誘導した.次年度は,得られた複合糖質画分の化学構造ならび活性について検討を行なうとともに,菌体表層タンパク質画分中の細胞活性成分の同定と宿主細胞上の受容体との関係について明らかにすることを計画している.
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