われわれは、NOによって活性化されるMAPキナーゼ系の癌化機構への関与について研究を遂行した結果、以下の2点を明らかにした。1)JNKならびにp38を制御するキナーゼであるASK1が、NOによって強く活性化されること、ASK1ノックアウトマウス由来の胎児線維芽細胞ではNOによるp38の早期の活性化が消失していることが分かった。このことから、NOによって活性化されるMAPキナーゼ系の制御分子の1つとしてASK1が重要な役割をもつことが示唆された。2)細胞内カルシウムの増加に伴ってASK1が活性化されることを見いだした。細胞内カルシウムの増加によるNOの産生増加や、逆にNOによるカルシウムの恒常性の調節といった現象が報告されていることから、NOとカルシウムシグナル伝達系とは密接なつながりをもつと考えられている。そこでNOによるASK1-MAPキナーゼ系の活性化へのカルシウムシグナルの関与を検討するため、カルシウムによるASK1の活性化機構を検討した。細胞内カルシウムの増加によるASK1の活性化はCaMKインヒビターKN-93によって抑制されること、ASK1はカルシウム刺激依存的にCaMKIIと結合すること、さらに、活性化したCaMKIIはin vitroにおいてASK1の活性化に必須の部位のリン酸化を引き起こすことが分かった。さらに、ASK1ノックアウトマウス由来の胎児由来線維芽細胞でのカルシウムによるp38の活性化は、NO発生剤を用いた際と同じように、刺激後、早期の相だけが減弱していることが明らかとなった。以上のことからASK1がCaMKIIを介したカルシウムシグナルによるp38の活性化に必須の機能をもつことが示唆された。
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